治水と利水の調和

治水と利水は、しばしば相反します。例えば、治水のためにはダムの水位を下げ、利水のためにはその水位を上げます。また、住民に供する地下水のために、地盤沈下が起こることがあります。

しかし、治水、利水、それに水環境は、別々のものではありません。調和されていることが大事です。なかなか、難しいことですが、どうやって調和させるかがこれからの水問題にとっては必要です。

急流河川の多い地域では、市街地の整備、あるいは、公園、道路整備と一体となったまちづくりに取り組んできました。今後も、「利水」「水環境」「治水」の3本柱を基本に据えて事業計画を進めることが必要です。

21世紀の水災害の増加

20世紀後半にいったん水害が減る傾向が見られました。その結果として、アメニティー(快適さ)だけを考えればいいという風潮が強まりました。一方で、市民の災害への認識が弱くなりました。21世紀になって水災害が増え、再び「治水」の重要性が見直されています。

日本の水資源

日本は水資源が比較的恵まれてはいます。しかし、将来は不足するとの予測もあります。温暖化という気候変動が要因の1つです。

節水、再利用、保全

水資源確保のために何をすればよいかといえば、限られた資源について節水、再利用するといった利用の問題と、もう1つは、資源の保全を図ることでしょう。保全といっても、人工雨などを含めた自然改造は、自然生態系を損なう点から好ましくありません。資源保全は、自然の保全と同じことです。それがアメニティー(快適さ)ということであり、自然を知り、自然を適正に利用することが大切です。

地下水利用を

水資源確保の一環として、地下水利用の研究を進めるべきでしょう。砂防的には、地下水そのものは、地滑りの原因として厄介視されてきましたが、地下水を飲料、生活用水としてもっと利用できるのではないでしょうか。

雪ダム

その意味では“固体としての水”つまり雪を水資源として活用すべきです。雪ダムのような積極的な利用で水資源開発をコントロールするなど、雪を使う文明が必要です。

節水の呼びかけ

地下ダムのような余裕水源の確保などハードな対応だけでなく、節水の呼びかけなどソフト面も考えていくことが、結果的にわれわれが水にかかわっていくことになります。

現代人にとっての川

川に対する警戒心の薄れ

現代人は川に対する警戒心が薄れました。その原因は、昭和終盤から平成にかけて、河川改修工事など治水が進んで、めったに堤防が決壊しなったことが影響していると指摘されています。

交通路としての川の終焉

また、現代社会では、交通路としての川の役割が終わってしまいました。流域に住んでいる人も川離れをしてしまいました。その結果として、日常的な川や水に関心を払う必要がなくなって、川に対する知識が減ってしまいました。

災害の風化

明治、大正、昭和前半までは、ずっと水を治めながら土地を作ってきました。自然現象に対処してきたわけです。それが、治水など社会基盤の整備によって災害の認識が低下、災害が風化しました。

防災教育を

防災教育を真剣に考える必要があります。防災だけでなく、水に関しては、基本的に人間が動物であるということをもう一度見直さなければいけない時期にきています。いまは、動物から離れてしまっています。災害、川、水問題は、自然そのものの認識から始まるのです。

過去の被災地に出向く

治水施設はつねに万全ではありません。地域の人たちの防災に対する心構えは常に必要です。防災教育には、必ずしも実際に災害にあう必要はありません。過去、災害にあった現地などに出向いて見学し、理解することで、十分です。

実体験を再評価する

大切なことは、机上の教育だけでなく、実地体験をした人を社会が評価しなければなりません。自然で苦労している“実体験”への再評価が不十分なのです。

富山県では

富山県では、常願寺川改修工事で新しい治水工法をあみだした先輩たちから、「水」について多くのことを学んだといいます。富山県庁などの河川管理担当の職員たちは、徹底的な現場主義を重視してきました。現場に行って川を見る。それによって河川計画立案の判断になる能力を養ったのです。